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国際開発研究大来賞

国際開発研究 大来賞

国際開発研究大来賞
受賞作品一覧


1回受賞作品(平成9年度)


廣瀬昌平・若月利之編著
『西アフリカ・サバンナの生態環境の修復と農村の再生』
(農林統計協会 1997年)

選評

西アフリカの農業開発にアジア的な水田耕作を導入する可能性を探った学際的・実践的研究書である。本書は、西アフリカの深刻な食料・環境危機の原因の根を、欧米諸国の奴隷貿易によるアフリカ社会の破壊と植民地体制下での伝統的農業システムの破壊ととらえ、農業生産性を向上させ、環境保全を行いつつ集約的な持続的農業を展開するための戦略として、アフリカの伝統的稲作に、アジア的な肥沃度持続型の水田農業を融合させようという思想が根幹をなしている。生態環境や伝統的農業、土地利用システムに関する調査、近隣牧畜民に関する生態人類学的調査等を基礎資料としたうえで、ガザ村において農民参加による水田開発や灌漑管理、魚の養殖アグロフォレストリーのオンファーム実証研究を行い、評価には農民の批判を受け入れて結論を引き出している。日本が得意とする水田農業の分野で、アフリカの伝統農業と調和できる「アフリカ型水田農業」を目指すべきとのメッセージは、我が国の援助政策にとって重要な意義を持つと言えよう。

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原洋之介著
『開発経済論』
(岩波書店 1996年)

選評

開発経済学の理論を要領良く紹介したテキストブックである。著者自身が巻頭で述べているとおり、開発とは「社会変化を伴う多面・多元的な過程であり」、開発経済論のテキスト執筆においては、テーマの選定とその論じ方に関して「書き手の問題意識が直面に顕在化せざるを得ない」。本書における書き手の問題意識は市場の存在を当然の前提としている経済成長論への批判、そして市場そのものの発展過程の解明という挑戦となって顕在化している。画一的な自由経済理論の押しつけに対して、国の歴史文化の独自性に注目している点が審査委員の共感を呼んだ。「開発途上国では、市場の制度が確立されていないから、新古典派的な経済学があてはまるとは限らない」という視点を含め、国際開発の中での経済学の位置付け、新古典派理論そのものへの挑戦という今日の重要な課題に果敢に取り組む姿勢を高く評価した。

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2回受賞作品(平成10年度)


絵所秀紀著
『開発の政治経済学』
(日本評論社 1997年)

選評

本書は非常に優れた開発経済学のテキスト、教科書であることをまず特記すべきであろう。開発経済学の諸説を網羅する際に関連の経済理論もていねいに解説していることも、テキストとしての有用性を高めている。入門書としても使えるだけでなく、かなり高度の議論もとりあげているため、専門家にとっても役に立つ。また、本書は開発経済学の学説史としても非常にバランスがとれている。開発経済学の起源から最近の説まで漏れなくカバーしているというだけでなく、現在の開発経済学においてパラダイム転換が必要となった歴史的、理論的な背景がよく理解できるように記述されている。そして、現実との緊張関係の中で開発経済学が変動を繰り返すことを多くの例によって雄弁に示しており、「アイディアの展開史」という著者のねらいは、その意味で成功しているといってよい。著者が渉猟した文献の量も相当量にのぼり、本書はそれらへの体系的なガイドともなっている。「開発経済学のパラダイム転換」はコアの部分である第4章のテーマであるが、ここはよく読むとまさに「開発の政治経済学」になっている。「開発」という課題はすぐれて政治的なものであり、単なる経済学の一分野ではない、という見方はわが国の開発援助にたずさわる人たちからもしばしば聞かれる声である。しかし、それがこのような理論的、学問的な形で示されたのは初めてではなかろうか。さらに、アマルティア・センの「潜在能力」アプローチを開発の実践、及び政治経済学での新しい地平を切り開くものとして位置づけていることが、本書のメッセージを明確にしている。 一見すると単なる学説史、入門書に見えるが、よく読めばそうではない。熟読玩味に値する一冊であろう。

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深川由起子著
『韓国・先進国経済論―成熟過程のミクロ分析』
(日本経済新聞社 1997年)

選評

大来賞は「国際開発研究」という言葉が冠されているので、表題から見ると単なる一国経済論にみえる本書が対象になりうるのか、という疑問もあるかもしれない。そうした疑問に対しては、「本書はもちろん非常に優れた韓国経済論であるが、といって単なる韓国経済論にとどまってはいない」という答が可能である。これは、著者が青木・奥野モデルを韓国に適用しようとしていることなどから明らかであろう。青木・奥野モデルは、大雑把にいえば、同じ資本主義システムであっても経済内部のシステムは多様でさまざまな資本主義がありうる、それぞれのシステムはそれぞれの状況に応じて自然発生的にできてきたものだから、それぞれメリットを持っているという考え方である。本書はこの青木・奥野モデルを援用しつつ韓国経済の解明に努めている。明示的にこのモデルについての言及がない場合でも、日本経済との比較が行われているところなどで、このモデルが意識されている。この「多様な資本主義がありうる」という考え方からすれば、多様な経済発展、開発がありうるということになる。本書は、どのような発展モデルが有効かという問に対して、韓国モデルも一つの答であったということによって開発経済学の一部になっているのである。ただ、著者は過去において有効だったものが最近において行き詰まりにいきつく理由を分析することを本書の中心テーマに据えているので、以上の点は見落とされやすいかもしれない。読者は、この行き詰まりの分析が本書完成後の韓国経済の危機を見事に予言していたことに強い印象を受けるであろうが、この点のみに目を奪われなければ、本書が開発経済学との関連からも高く評価できることに気がつくであろう。

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3回受賞作品(平成11年度)


中兼和津次著
『中国経済発展論』
(有斐閣 1999年)

選評

本書は中国経済についての優れた教科書であるだけでなく、開発経済学についての優れた教科書である。同時に本書は中国経済についての優れた研究書(の解説書版)でもある。すなわち中国経済についての教科書といっても、本書は叙述的、解説的な内容に終始する入門書ではなく、開発経済学、体制移行論の視点からの分析的な内容を含む労作であり、研究書としても中国経済研究の先端をいくものとなっている。著者ははしがきで、著者による1992年の『中国経済論ー農工関係の政治経済学』を東京大学の講義に使ったところ、難しいという反応が学生の間から出たので、今回は学部の3年生以上を対象にしたと書いている。たしかに、いくつかの理論の解説なども挿入されており読みやすい。それでも、そうした理論が応用されていること自体が内容の高度さにつながっている。特定の発展途上国の分析に、開発経済学などの理論がこのように応用されうるということも印象的である。その意味で、開発経済学についての優れた教科書にもなっているといえる。また、経済理論の応用にこだわりすぎて重要な論点を落としたりはしていない。それどころか、多くの読者が知りたいであろう諸点について「政治経済学」的な議論もたっぷりと盛り込まれている。例えば、社会主義という枠組みに政府が囚われている故に市場経済への移行と経済発展をねらう政府の政策が大きな困難に遭遇している状況の議論や、中国経済が将来の世界に対して及ぼす影響や、日中関係を論じた部分などなどである。

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辻村英之著
『南部アフリカの農村協同組合―構造調整政策下における役割と育成』
(日本経済評論社 1999年)

選評

本書は、南部アフリカにおける潜在的失業状態を解消し、黒人大衆の絶対的貧困を解消することを同地域開発の最優先課題として捉えた上で、この状態をつくりだしている「未開発化圧力」「構造調整圧力」について分析を加え、これに対抗するためには、「黒人小農民が...自らの生活・生産を再生産していけるように、彼らの機能を高める」必要があることを指摘し、これができる農業協同組合を育成するための条件を明らかにしようとしている。著者は、理論面ではすでに古いとして捨て去られがちな従属理論を、研究対象に適合するように創造的に再解釈している。その枠組みの中で、構造調整政策の限界などについて加えている分析については、評価がわかれるが、ナミビアやタンザニアの経済を分析してその基本構造に迫ろうとしているなかで、本書の読者に新鮮なアイデアを提供してくれている。また、実務面ではこれまで失敗例ばかりの多かった協同組合重視の楽観論を批判しながらも、ナミビア、タンザニア、日本の協同組合を事例として、その育成を評価し、その内部の諸問題、例えば伝統と近代の相克について、検討を加えた上で、民主的意志決定機能や圧力団体機能を充実させる指導と教育を協同組合に期待している。著者は、こうすることで、構造調整政策のファースト・トラックの影響のもとで、マージナライズされている南部アフリカの黒人小農民セクターにおける開発のスロー・トラックの可能性を指し示している点で注目に値する労作である。

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4回受賞作品(平成12年度)


峯陽一著
『現代アフリカと開発経済学 市場経済の荒波のなかで』
(日本評論社 1999年)

選評

「アフリカ社会を治めアフリカ民衆の苦難を救うために、現代の経済学はどんな貢献ができるのだろうか。そう考えるときアフリカの世界はむしろ経済学が鍛えられていく舞台として位置づけられる」。これが本書の全編を貫く思想であろう。そこからは地域研究家としてアフリカをこよなく愛してきた著者の学者魂がひしひしと伝わってくる。本書は初めに「歴史への視座」を設け、古代の輝き、奴隷貿易の傷痕をしっかり見据えた上で、ノーベル経済学賞を受賞したアフリカ系人のW.アーサー・ルイス(1979年)、アジア人のアマルティア・セン(1998年)、そしてアルバート・O・ハーシュマンという3人の経済学者をアフリカに登場させ、アフリカという透視鏡を通して彼らの仕事を実際に読み直しながら、3人の思想的営みの絡み合いを浮かび上がらせていく。著者は「3人の議論がある種の輝きを放っているとすれば、それは開発経済学の成熟期の輝きというよりも、発生期の輝きだといえるのではないか」と述べているが、これが本書の真髄でもある。苦悩と希望の歴史的な背景、農業問題、都市化、累積債務、構造調整、飢餓、地域紛争、開発、民主化、市場経済化の展望という多様なテーマをめぐり、現代アフリカの政治経済学を様々な角度から論じている。経済学に対しアフリカから檄を飛ばしているといえる。その意味で、国際開発研究に挑戦する21世紀の研究者への檄文ともいえる。また、これは故大来佐武郎先生の気概に合致した研究図書でもある。

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5回受賞作品(平成13年度)


黒崎卓著
『開発のミクロ経済学』
(岩波書店2001年)

選評

経済開発論のミクロ的分析の国際的な主流は、いまやハウスホールド・モデルであるといっても過言ではない。このアプローチは、貧困問題の構造的側面を厳密に計量経済学的手法を用いて明らかにし、それに対する望ましい政策的対応を考えるうえで不可欠な分析トゥールになっている。こうしたアプローチを駆使しながら国際的に活躍をしている著者が、本来的に難解なこのモデルの本質をできるだけ分かりやすく解説しつつ、それを応用した実証研究の成果を集大成したことは、わが国の開発経済学の水準を高めるうえできわめて意義深い。類似の著書は英文を含めてほとんどなく、本書は、大学院生をはじめとして開発経済学を専攻する研究者の必読書であると位置付けることができよう。本書はハウスホールド・モデルだけを扱っているだけでなく、小作契約の有効性や農産物市場の効率性等の重要な問題についても、南アジアの事例を題材にしつつ、興味深い分析を展開している。深い経済理論の理解と、適切な実証的分析手法に立脚した本書は、国際水準に達した好著であることは疑いなく、それには高い評価が与えられてしかるべきであろう。ただし、開発経済学を学ぶうえでのハウスホールド・モデルの意義、それを応用することによって得られる政策的インプリケーションについて丁寧な説明が欠けていることが悔やまれる。果たしてどれだけの若手の研究者が、ハウスホールド・モデルを適用することに熱意を抱くようになったか、不安がないわけではない。

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西川潤著
『人間のための経済学―開発と貧困を考える』
(岩波書店 2001年)

選評

開発援助の初期のころは、経済成長の均霑(トリックル・ダウン)効果によって、その恩恵が自動的に民衆に広く裨益していくという考え方が開発援助の大宗を占めていた。それが次の段階では、経済発展の恩恵がいっこうに民衆に裨益していかない状況のなかで、依然として人間らしい生活を営められない貧困層が残されたままになり、開発援助はBHN(Basic Human Needs=人間としての基本的要請)を重視するようになった。現在、開発援助の主要テーマは「貧困削減」である。「人間開発指標」まで作成しているUNDP(国連開発計画)の人間開発報告書は、貧困は「人間の潜在能力」が開発されてないところに起因するというアマルティア・セン教授(ノーベル経済学賞受賞)の影響を大きく受けているが、今では人間中心の開発援助パラダイムとして台頭している。しかし、経済理論の領域では新古典派の段階にとどまっており、必ずしも開発経済学の新しい関心に向けた理論的な展開が十分とはいえない。著者はこうした状況に対して、文化と発展、地域発展、参加型発展などを重視する内発的発展論、社会構造と経済の動きとの関係を解明する構造学派の諸理論や社会、人間開発に関する諸分析を集め、そして整理しながら開発的発展論、社会的経済学、人間発展論を統合的に考えていく際の一里塚になればと願っている。これは人間中心の経済学を再構築するうえでも重要な挑戦といえるであろう。前回入賞の峯陽一著「現代アフリカと開発経済学」でも「現代の経済学はアフリカの社会を治め苦難を救うことにどれだけ貢献できるか」と述べている。

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6回受賞作品(平成14年度)


石井正子著
『女性が語るフィリピンのムスリム社会−紛争・開発・社会的変容』
(明石書店2001年)

選評(廣野良吉 成蹊大学名誉教授)

新しい研究視点を導入し、現場の開発・開発協力の事例・実態・要因分析から理論的体系化を試み、開発協力政策乃至実践で新しい有用な提言をする研究者の育成を刺激することにある。本書は、開発協力政策や実務で直接役立つ提言が見当たらないのが選考上最大の問題点であったが、開発研究に「語り」というインタービュー形式を導入して、現実を探ろうとする接近方法が新鮮であり、13ヶ月に及ぶムスリム社会での綿密な現地調査に基づく地道な研究が、地域研究者のみならず、途上国の経済・政治・社会問題の研究に関心ある総ての研究者にとっても手本となるということが評価された。フィリピンのムスリム社会については多くの文献が内外で出版されている中で、本書はムスリム女性に焦点を併せて彼女たちの社会的背景のみならず、その経済的・政治的・文化的活動を、彼女たちの日常生活実態の観察と彼女たちとの「語り」を通じて浮き彫りにしている。日本人一般が持つムスリム女性のステレオタイプ的理解・認識を排しており、実践面でもムスリム社会のジェンダー支援のあり方で若干示唆に富む点もある。しかし、ムスリム女性の行動様式についての理論的仮説がなく、ミンダナオ島の一地方での個人的観察に中心をおいているが故に、その結論が他の地域・社会への応用性があるのか、どの程度まで普遍性があるのかが検証されていないのが残念である。特に、戦後のフィリピンの経済発展で取り残されてきた他の地域社会の住民の行動様式との比較の中で、ミンダナオ島という一地方のムスリム女性の行動様式の特徴を分析してほしかったというのは、若年研究者に対しては余りにも過大な期待であろうか。最後に本書は一般的にフィリピンを含むアジアのイスラム社会の女性について関心と理解が薄い日本人にとっては、優れた紹介的書物であることを強調しておきたい。

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脇村孝平著
『飢饉・疫病・植民地統治―開発の中の英領インド』
(名古屋大学出版会2001年)

選評(大塚啓二郎 FASID連携大学院プログラムディレクター/プロフェソリアル・フェロー)

きわめて残念ながら、人類にとって最も根源的な悲劇である「飢餓」を、人類は地球上から撲滅することにいまだに成功していない。今年はアフリカの南部や東部で旱魃のために食糧不足が心配されている。つまり飢餓は、依然として人類にとって最も重要な今日的な問題の一つであり続けている。受賞対象となった本書は、英領インド時代の飢餓の実態をまさにそのタイトルにある通り、『飢饉・疫病・植民地統治』の三つの観点から鋭くえぐった名著である。著者によれば、インドで食糧生産が増大した1871年から1920年までの時期には飢饉・疫病が頻発し人口が減少したのに対して、その後の1950年までの時期には、農業生産は停滞したが飢饉・疫病は減少し人口は増大した。このパラドクシカルな現象はなぜ引き起こされたのか。著者は、学術的文献はもとより、点在する統計数値、膨大な植民地政府の報告書を総点検し、その謎にメスを入れていく。「なぜか」という問いを自ら発し、その答えを追い求める著者の研究姿勢は、実証研究の原点とは何かを教えてくれる。A. K. Senのエンパワーメントの議論を踏まえつつ、植民地政策の評価等、独自の視点を提示していることも高く評価したい。
1920年以降、センが問題にした1943年のベンガル飢饉までの期間になぜインドで疫病が減少していったのか、その教訓が描かれていないのは残念であったが、それは次の著作で解決してくれるものと期待したい。審査では本書に対して、「実践的活動へのインプリケイションが少ない」という批判もあったが、それはFASIDの関心がそこにあるからであって、国際的にも充分に通用する本書の学問的価値を否定するものではないと評者は理解している。

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7回受賞作品(平成15年度)


平野克己著
『図説アフリカ経済』
(日本評論社2002年)

選評(荒木光弥 国際開発ジャーナル社代表取締役)

審査員の一人は「図説か」といいながら読み込んでいくうちに本格的な学術書であることに気づいた。多くのグラフと表を駆使して、漠然としたアフリカ全体の経済論を鮮明にしていることを考えると、図説は単なる図説ではない。著者のチャレンジが感じられる。
折しも第3回東京アフリカ開発会議が開催され、アフリカの貧困問題が大きくクローズアップされていた。そうしたなかで、人びとは48カ国に及ぶ個々のアフリカ諸国の政治・経済問題ではなく、サハラ以南アフリカ全体を貫通する実像を知りたいと思った。アフリカを貧困にしている実像が知りたかった。その時、本書は貧困問題を大きく左右する経済に焦点をあてて、経済を通して多様なアフリカを理解する方法を教えてくれた。著者も「地域研究者としてアフリカの多彩な様相を追いかけながら、その多様さを理解するフレームとして積み上げてきた理解の様式を主に経済の側面に焦点をあてて、まとめて提示した」と述べている。
本論の核心は「成長しない経済」こそアフリカ問題であるとし、最終章で「成長しない経済」の行方を展望している。それによると、アフリカ総労働力の6割以上を吸収する農業部門の改革がまず行われなければ、国内市場も地域市場も深化せず、したがって工業化の可能性は開かれないとし、そのうえでアフリカの貧困問題はその貧困層の8割を構成するアフリカ小農の所得向上がない限り、決して貧困が削減されることはないと言い切る。 著者はそうした視点から日本が手がけたネリカ米の普及に熱心であり、草の根的な農村アプローチを主張する。アフリカ問題はグローバル・イシューとして重要であるにもかかわらず、日本での研究者は極めて少なく、欧米、アジア研究に比べて決して優遇されていない。そのなかで黙々と真摯に研究を続けてきた研究者への敬意が大来賞といえるだろう。

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8回受賞作品(平成16年度)


石井菜穂子著
『長期経済発展の実証分析:成長メカニズムを機能させる制度は何か』
(日本経済新聞社 2003年)

選評(浅沼信爾 一橋大学大学院教授)

本書は、長期経済発展の決定要因は何かという壮大な問題に、それは広義の「制度的な発展」であると答え、それを検証しようとした野心的な試みである。著者は、先進工業国の長期経済発展を歴史的に概観することによって、経済発展のための「環境条件」を、(1)技術革新力、(2)物的インフラ、(3)人的資本、(4)私的所有権、(5)社会的結合力、(6)ガバナンス、の6つであると想定して、長期経済成長率はこれら6要素からなる「制度のミニマム・セット」の発展度合いによって説明できると結論づけている。さらに、制度のミニマム・セットを「制度の6角形」で表し、制度の未発達がどの要素の欠如によるのかを明らかにして、長期的な経済成長促進の政策指針を提供している。
本書は、既存の標準理論を部分的に修正・拡張しそれを統計的に検証するといった手堅い研究ではない。長期経済発展は制度の発展が決定する、またさらに経済成長を促進する「環境条件」として6つの制度的要因があるという大胆な仮説から出発して、統計的な分析のみならず経済発展の歴史の検討、政策実務から会得した経験等々すべてを駆使して、読者に対する説得を試みている。著者の出発点である仮説と方法が大胆であるとするかあるいは無謀であるとするかによって、本書に対する評価は分かれる。経済発展と制度の間にあるいは制度の要素間に双方向的な因果関係があるとして、本書の学術的完成度を論難することは容易である。それにもかかわらず、著者が長期経済発展という壮大な問題に、理論、統計、歴史、政策実務経験のすべてを総動員して果敢に挑戦したその意欲は高く評価できる。この大来賞は、学術的な完成作品に対するというよりは、著者の意欲的な挑戦に対する選者の敬意の現れである。

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安原毅著
『メキシコ経済の金融不安定性:金融自由化・開放化政策の批判的研究』
(新評論 2003年)

選評(廣野良吉 成蹊大学名誉教授)

本書は、メキシコ経済に内在する金融不安定性について論じた理論的・実証的研究である。本書の長所は、メキシコで実際に実施された自由化・開放化政策の実態に迫り、その効果のメカニズムを分析した点にある。本書に対する読者の最大の関心は、90年代を通じてメキシコの金融システムが大きく構造変化した結果金融システムが不安定化したという点にある。すなわち、新自由主義政策の下でのメキシコにおける国営企業の民営化、金融の自由化等が、IMFや世界銀行の期待に反して、マクロ経済の安定化政策との整合性を欠き、金融不安定性の増大と共に、諸々の経済的・社会的矛盾をもたらしている点である。著者はその根拠を、一方で金融仲介業務部門における「民営化の不始末」と他方では政府、通貨当局の誤った政策に求めているが、これは民営化・自由化政策の立案ないし実行において政治的圧力による非合理性や不徹底性や不透明性の排除が如何に重要であるかを物語っている。この意味で、メキシコの金融不安定性は、民営化・自由化政策そのものが根本的に誤りであるのではなく、その方法とマクロ経済政策との整合性にあるという著者の主張は、現在国・公営企業の民営化、金融の自由化、規制緩和を広く進めている多くの途上国の政策当局としても傾聴に値する。しかし、マクロ理論や文献サーベイの比重が高く、本書の表題とは異なって、メキシコの金融制度に主眼を置いた分析になっていないという点と、本書全体の展望や構成を説明し、統一的な分析フレームワークを提示する序章が無かったことが審査委員一同不満であったことを付言しておきたい。最後に、途上国の最大関心事であり、著者自身が意欲を示しているマイクロ金融の貧困削減への効果についての今後の理論的・実証的研究に期待したい。

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9回受賞作品(平成17年度)


藤田幸一著
『バングラデシュ 農村開発のなかの階層変動 貧困削減のための基礎研究』
(京都大学学術出版会 2005年)

選評(大塚啓二郎 FASID連携大学院プログラムディレクター)

途上国の実態を知ろうとすれば、フィールド調査が不可欠である。しかしフィールド調査は誰にもできるほど生易しいものではない。大事なことは途上国の人々と話をしながら「Relevant」な質問を発することができるか否かである。「なぜこんなことが起こっているのか」、一見不可解な現象に遭遇したら、それを徹底的に追及していくことが調査の基本である。しかし不可解な現象を見つけるには経験が必要であり、データを駆使しながらその原因を解明するためには経済理論の知識や分析のセンスが必要である。本書は著者の経験と努力と能力が結実したまれにみる労作である。フィールド調査を志す研究者の一人として、本書の大来賞受賞を心からお祝い申し上げたい。
 丹念な分析とともに、根拠のうすい通説を打破しながら新たな「正論」を打ち立ててくれているのが本書の魅力である。通説のように大農が小農を搾取しているわけではないし、井戸を所有している村の実力者が井戸に投資する資金的余裕のない貧農を搾取しているわけでもない。市場メカニズムが、競争を通じて搾取の発生を押さえ込んでいるのである。通説が主張するほどマイクロファイナンスが貧困削減の特効薬ではないことも示してくれている。著者ならではの研究成果が随所に織り込まれており、実に読み応えのある著作である。
 当然のことながら、他の選考委員からの評価も非常に高いものであった。ただし、「分析がバングラデッシュに特有で、結論の一般性に疑問がある」という声があった。しかし、一般性のある発見をするためには丹念な実態研究を様々な場所で積み重ねる以外に方法はない。したがって、バングラデッシュに特化した研究を行ったことに問題はない。あえて勝手なことを言えば、受賞者にはバングラデッシュ以外の国おいても研究を重ねて欲しいとは思う。なぜならば、さらに一般性のある重大な事実をえぐり出してくれるに違いないと思うからである。

著者略歴
藤田幸一(ふじた・こういち)
1959年大阪生まれ。1982年東京大学農学部農業経済学科卒業、1986年同大学院農学系研究科農業経済学専攻修士課程修了、1992年同大学院農学系研究科より博士(農学)を取得。農林水産省農業総合研究所研究員(1986年より)、東京大学農学部助教授(1995年より)を経て、1998年より京都大学東南アジア研究所助教授。

主要著書:
『バングラデシュ農業発展論序説』農業総合研究所、研究叢書第114号、1993年
「制度の経済学と途上国の農業・農村開発」『農業経済研究』第74巻第2号、2002年
「農村の貧困と開発の課題」絵所秀紀・穂坂光彦・野上裕生編著『貧困と開発』日本評論社、2004年
『ミャンマー移行経済の変容』(編著)アジア経済研究所、2005年

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10回受賞作品(平成18年度)


谷 正和著
『村の暮らしと砒素汚染 −バングラデシュの農村から−』
(九州大学出版会、2005)

選評(荒木光弥 国際開発ジャーナル社)

本書は多くの人びとに砒素汚染の恐ろしさを知ってもらう啓発的な教科書であるとともに、砒素汚染を防止するための外国援助者にとっても「援助する意味」を考えるうえで参考になる実践の書だといえる。
著者の谷正和助教授(九州大学大学院)は94年に発足したNGOアジア砒素ネットワークと行動を共にしながらバングラデシュ、ネパールの現場で人類学的調査を行い、本書ではバングラデシュのシャタム村とアルマ村に入り、人類学的な角度から村社会の仕組み、そこに住む伝統的な村人たちの深層心理に分析の目を向けながら得た新しい知的発見と援助する者への教訓を収めている。
本書の特色を挙げると、第1に、深刻な砒素中毒汚染をバングラデシュの二つの農村から訴え、貧しさゆえの問題の複雑さ、そして根深さを日本の多くの人びとに知ってもらおうという意図をもって筆をとっていること。審査では、文献レビューや論理性の不足が指摘されたが、著者が最初から学術的探求でなく、学者の目で捉えた現実からの生きた情報を少し加工して一般大衆に“啓発の教科書”として発信しようという執筆意図を勘案して「大来賞」に値するものと判断した。
第2に、貧しい農村での砒素汚染を人類学、環境人類学というジャンルから捉えていることである。通常、砒素といえば薬学など医学部門が登場したり、農村開発といえば経済学や社会学などからのアプローチが主流を占めている。その意味で、本書の環境人類学というアプローチに新鮮さを感じる。冷徹な目で農村の歴史のなかに閉じ込められたような人間を鋭く観察する。そのうえで対応を考えようとする。
第3に、現場体験による人類学的な視点で村と人間分析を行い、改めて外国人が「援助する」という意味を問うていることである。これをODA開発調査からみると、他に類を見ない高品質の現地調査報告書ともいえる。

著者略歴
谷 正和(たに・まさかず)
1957年生まれ。1991年アリゾナ大学大学院人類学研究科博士課程修了。アリゾナ大学応用人類学研究所研究員、宮崎国際大学比較文化学部助教授、九州芸術工科大学芸術工学部助教授を経て、2004年より九州大学大学院芸術工学研究院助教授。

主要著書:
『民族考古学序説』(共著、1998年、同成社)
『Anthropology of Consumer Behavior』(共著、1995年、Sage University Press)
『Kalinga Ethnoarchaeology』(共著、1994年、Smithsonian Institution Press)

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11回受賞作品(平成19年度)


湖中 真哉 著
『牧畜二重経済の人類学−ケニア・サンブルの民族誌的研究』
(世界思想社、2006)

選評(廣野 良吉 成蹊大学名誉教授)

本書は、ケニアのサンブルにおける生業経済と市場経済の並存の様相を民俗誌的なアプローチによって分析した試みである。サンブルの牧畜農村で従来の生業経済が市場化に如何に対応してきたか綿密な実態調査を通じて明らかにし、両者の併存的複層化を牧畜二重経済原理として一般化しようとしている試みは評価できる。特に、調査の枠組みと方法が明確であり、フィールド調査が有効に活用されており、家畜商の取引の記録からの分析は真に興味深い。
経済の実態を数字だけから把握するのではなく、彼らの日常生活の言動を通して経済行為の背景にある文化的要素もふくめて鋭く分析している点に、文化人類学者ならではの視点が生きている。市場経済に組み込まれるか、あるいは生業経済を守り続けるかという二者択一的な発想ではなく、若干無理はあるが、家畜を地域通貨として位置づけ、その市場機能を評価・分析して、アフリカでは、市場は機能しないという「伝統的な考え方」に終止符をうとうとした意図に拍手を送りたい。さらに、「牧畜二重経済が消滅するという予測を前提にすることで、結果的に彼らの内発的発展の萌芽を摘み取ってはならない」という文化人類学者的視点は、開発問題の経済学的分析から開発政策を論ずる経済学者にとって一つの警鐘だと思う。そして、開発政策が地域住民の経済福祉に資するものであるためには地域・住民の価値観や行動を的確に把握する必要があるという指摘は、従来からなされていたが、本書はケニア牧畜民について真にそのような成果をあげているといえるであろう。
大半の途上国政府は伝統的な生業経済に市場経済原理を導入し、経済の効率化を通じて貧困削減目標を達成しようとしているので、本書は、開発政策担当者やその協力者に対して示唆に富む。
しかし、本書では家計簿からの調査はサンプルが二つのみであり、つっこんだ分析になっているとはいいがたい。また、科学的な数量分析ができていない点も気になる。さらに、先進市場経済でも、農家の自家消費は多いのが現実であり、これをもって二重経済の証左にはならないという指摘もある。この牧畜二重経済体制を「内発的発展」のモデルとしているが、政策担当者は、二重経済体制のメリットに対する関心と同時に、それを確立する際の条件整備(政策インセンティブを含めて)の難易度に関心がある。この点の分析の一般化が努力不足であったといわざるを得ない。
以上の論点からわかるように、審査委員の間でかなりの異論が最後まで飛び交ったが、若手の学者がユニークなデータを収集し、独自の分析の展開を通じて、開発議論への新しい挑戦を大切にするという「大来賞」の狙いから、本書の推薦を最終的に合意したということを付記したい。

著者略歴
湖中 真哉 (こなか・しんや)
1965年生まれ。1994年筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科にて論文審査により博士(地域研究)の学位取得。静岡県立大学国際関係学部助手を経て、現在静岡県立大学国際関係学部准教授、放送大学教養学部協力分担講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員、国立民族学博物館共同研究員、日本ナイル・エチオピア学会評議員。

主要著書:
「小生産物(商品)の微細なグローバリゼーション─ケニア中北部・サンブルの廃物資源利用」(小川了 編)『論文集 資源人類学 第4巻 躍動する小生産物』弘文堂、2007年11月刊行予定。
「民族誌の未来形へ向けての実験─オンライン民族誌の実践から」(飯田卓・原知章 編)『電子メディアを飼いならす―異文化を橋渡すフィールド研究の視座』せりか書房、pp.221-234、2005。
「地域通貨はなぜ使われないか─静岡県清水駅前銀座商店街の事例」『国際関係・比較文化研究』(3)2:pp.33−58、2005。

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12回受賞作品(平成20年度)


牧田 りえ 著
『Livelihood Diversification and Landlessness in Rural Bangladesh』
(The University Press Limited, Dhaka, 2007)

選評(廣野 良吉 成蹊大学名誉教授)

本書は、バングラデッシュの農村における土地無し農民に焦点を当てた実態調査に基づいた研究である。周知のように、従来から多くの低所得国、最貧国では、土地無しに農民=貧困層の削減に取り組んでおり、その削減戦略としては、マクロ経済成長、人口増の抑制、農地改革、工業化による農村人口の都市への移動、農業生産における規模の拡大、農産物の多様化による生産性の向上が有効であると言われてきた。しかし、これらの戦略も、政治的・経済的・社会的・生態的制約条件に直面して、成果が期待ほどでていないのが現状である。バングラデッシュもこの例外ではなく、相変わらず南アジア地域でも最高の失業率や貧困率を未解決のままできている。
本書の特徴は、総合農村開発研究所(IIRD)というNGOが指導する「パートナシップ企業」による非耕作部門での所得創出事業が、一農村地域における貧困削減効果をいかにもたらしているかを綿密な実態調査に基づいて実証している点にある。本書は、現存する多くの制約条件の下で、単なる政府補助金対策や、政治的構造改革による社会的軋轢・混乱をもたらすことなく、グラミン銀行と同様に、途上国が推進できるもう一つの貧困脱却の道があることを示している。NGOという政府以外の市場プレーヤーによる市場原理に基づいた、経済活動の効率化を通じた支援活動というアプローチは、そのもろもろの限界にも拘らず、財政赤字に直面している多くの途上国の政策担当者にとっても示唆に富み、大きな期待と希望を与えるものであるということができるであろう。特に、単純生産的生業から拡大生産的産業へ(from survival to accumulation)と発展するために農民自身が必要な技能・技術と農村を取り巻く資金、市場、法・行政等の諸条件整備がいかなるものかを明確にしている。実態調査の枠組みと方法が明確であり、フィールド調査が有効に活用されている点も高く評価したい。
しかし、学術的には、本書には厳密な統計分析がなく、経済理論的考察も不足している。さらに、実践面では、パートナーシップ企業という形で参入したNGO自身に相当の運営管理能力や技術的専門性等が求められるが、一般のNGOにはその能力・体制も不備であろうから、はたしてこのアプローチが、多くの途上国で普及できるかどうかも気になる。
しかし、日本人学者が日本人の眼で見た途上国の農村分析を英文で発表・出版し、日本の対外発信強化に資すると同時に、国際的な開発政策議論へ多数の日本人学者が参加することの大切さを常に強調、訴えてこられてきた大来先生の遺志に応えるという意味もあって、本書の推薦を最終的に合意したということを付記したい。

著者略歴
牧田 りえ(まきた・りえ)
東京都生まれ。1995年コーネル大学修士課程(国際農業・農村開発)修了後、旧海外経済協力基金、(財)国際開発センターに勤務。2006年オーストラリア国立大学より博士号(地理学)を取得。豪州ウーロンゴン大学客員研究員を経て、2008年より東京大学サステイナビリティ学連携研究機構の特任研究員としてインド・エネルギー資源研究所へ派遣される。

主要著書:
“The visibility of women’s work for poverty reduction: Implications from non-crop agricultural income-generating programs in Bangladesh”, Agriculture and Human Values, online first (Springer). 2008年(印刷媒体は2009年)
“Exploring partnership enterprise for the rural poor through an experimental poultry program in Bangladesh”, Journal of Developmental Entrepreneurship, 12 (2): 217‐237. 2007年
“Changing patron‐client relations favourable to new opportunities for landless labourers in rural Bangladesh”, Journal of South Asian Development, 2(2): 255‐277. 2007年
「開発のための調査」(山本一巳・山形辰史 編)『国際協力の現場から―開発にたずさわる若き専門家たち― 』岩波書店、2007年
「停滞産業と成長産業をつなぐバングラデッシュNGOの試み―貧困層の経済機会としての養蚕業―」『国際開発研究』(15) 2: 101‐118、2006年

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13回受賞作品(平成21年度)


武内 進一 著
『現代アフリカの紛争と国家−ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』 (明石書店、2009年)

選評(株式会社国際開発ジャーナル 代表取締役 荒木 光弥)

本書は現代アフリカ紛争の根源を探求した著者・武内進一氏の集大成ではないかと思う。筆者は対アフリカ援助がクローズ・アップされた時、混迷のアフリカ社会の歴史的な実像を勉強しようと手にしたのが「現代アフリカの紛争−歴史と主体」(武内進一編、アジア経済研究所)であった。また、紛争予防外交を調べた時には「アフリカの国内紛争と予防外交」(NIRA・横山洋三共編、国際書院)を参考にした。この時も武内氏は第4章予防外交の新たな展開で第2節と第3節を執筆している。その他、多くのアフリカ研究会でもルワンダをベースに紛争の根元をみつめた報告を行っている。今回は、これまでの研究をベースに一つの研究の型にまとめあげたと言えそうだ。
たとえば、本書はアフリカにおける紛争は主体が国家の軍隊ではなく民兵など小さな単位になっているため、被害は市民に集中するといった既存の理論があるが、それら理論とルワンダの事例を組み合わせながら、さらになぜそのような状況が生じているのかを絶妙に描いている。既存の理論はアフリカの社会を単純化して描きがちであったが、本書においてはアフリカ社会の複雑さをより詳細に明確化している。そして既存の理論について、当たり前と思われていた点について、一つ一つあらためて考察し直している。それにより、新たな視点をいくつも呈示しており、通説をそのまま鵜呑みにするのではなく、極めて多様な視点を持って、アフリカを捉える必要性を感じさせてくれる。
さまざまな理論が活用されていることもさることながら、特に、ルワンダに関する極めて詳細で具体的な情報には驚かされた。巻末にはインタビューの資料や調査の際の写真が掲載されており、実践的な応用にも期待でき、本書で提示されている情報そのものの価値も高いであろう。さらに強調すべきは、随所に図を活用しながら、それぞれが非常にわかりやすく解説されている。また、本書は400ページを越える大作であるが、歴史や社会構造を説明する上でも、残された文献や人々の声を引用しながら描かれ、ページ数を感じさせないほど、読み物としても非常に魅力的なものになっている。
本書以外、戸堂康之氏の「技術伝播と経済成長」、本台進氏・新谷正彦氏共著の「教育と所得格差−インドネシアにおける貧困削減に向けて−」も大変高く評価でき、最終的な受賞作品を選ぶ際、至難であった。しかし本書は、今後の平和構築に向け大いに活用できる本として普及が進む可能性が高く、またその願いを込めて、受賞への推薦を後押しした。

現代アフリカの紛争と国家−ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド 写真

著者略歴
武内 進一(たけうち しんいち)
1962年兵庫県生まれ。1986年東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、アジア経済研究所に入所。コンゴ共和国、ガボンで在外研究(1992〜94年)を行う。アフリカ研究グループ長を経て、2009年4月より国際協力機構(JICA)研究所に出向中。現在、JICA研究所上席研究員。東京大学博士(2008年、学術)。

主要著書:
『戦争と平和の間 ― 紛争勃発後のアフリカと国際社会』 (編著、2008年、アジア経済研究所)
『朝倉世界地理講座12 アフリカII』 (共編著、2008年、朝倉書店)
『朝倉世界地理講座11 アフリカI』 (共編著、2007年、朝倉書店)
『国家・暴力・政治 ― アジア・アフリカの紛争をめぐって』 (編著、2003年、アジア経済研究所)
『現代アフリカの紛争 ― 歴史と主体』 (編著、2000年、アジア経済研究所)

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14回受賞作品(平成22年度)


田辺 明生 著
『カーストと平等性 - インド社会の歴史人類学 -』(東京大学出版会、2010年)

選評(政策研究大学院大学 名誉教授 大来 洋一)
カーストと平等性 写真

本書は、カースト制度について論じているが、カーストがヒエラルヒーであり、権力による支配の構造であるという通常の理解に対して、カーストがそのようなものであるのは、政治・経済の側面での話であり、そのような構図の影に隠れた日常生活のレベル、とくに祭祀など宗教的、精神的次元では「存在の平等性」という原理が働いている、と指摘する。それは、すべての存在(人間)の根源的な平等性と、現実の世界でのカーストにもとづく支配や差別との間にある矛盾を「媒介」する原理であり、それは植民地時代の以前から、祭の場などで観察できるものとして存在してきた。インド社会における民衆の政治参加は、地域社会の中の派閥を通じる国家資源の獲得競争(賄賂や横領)という否定的な側面を含むが、それを乗り越える社会協力のための「文化的資源」として、この「存在の平等性」に期待できるという。1990年代の民衆主導の反差別、反カーストの動きにもそれは窺われる。このような本書の主張は、楽観的かもしれないが、一つの見方であろう。

著者は、カースト制度の変遷をインドのオリッサ地方で追いながら、同時に地域社会や日常生活の中での「存在の平等性」という原理の生き残りを確かめていく。この作業は大変な労力を伴うものであったと思われる。多くの聞き取り調査、フィールド調査、貝葉文書の収集、祭祀における儀礼、とくに生贄のお供えの克明な観察など、長期の実地調査が行われている。また、膨大な文献の読み込みが行われている。審査会は、これまでも地道な現場での研究を評価してきており、今回も同様な観点から本書を推す声が多かった。なお、カースト制度に平等性をもたらす側面があるという歴史学の中の一派との違いが不明である、という指摘もあったが、インドに昔から「存在の平等」という観念があったことを気づかせてくれることを評価するという意見もあり、全体として本書を選ぶことで意見の一致をみた。

本書は、A. Senや、Rawlsなどの議論も吸収しており、開発経済学にもつながる業績であると思われる。ただ、審査員の多くが経済学の畑の者であったために、本書の内容を十分に理解するのは容易ではなかった。もし、本書が簡潔で平易な文体で書かれていたら、他の候補作を大きく引き離す評価を得ていたと思う。他の候補作では、高橋基樹氏の『開発と国家:アフリカ政治経済論序説』を力作として推す声も多かったが、力が入るあまり、議論の展開が若干性急になった部分があったのは惜しまれる。また、平野克己氏の『アフリカ問題:開発と援助の世界史』を推す声もあったが、氏の既受賞作との重複感があることから見送られた。

著者略歴
田辺 明生(たなべ あきお)
田辺明生 1964年岡山生まれ。1988年東京大学法学部卒業、1993年東京大学大学院総合文化研究科文化人類学専攻博士課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手、京都大学人文科学研究所准教授などを経て、現在、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授、同研究科附属現代インド研究センター長。博士(学術)。

主要著書:
『地球圏・生命圏・人間圏―持続的な生存基盤を求めて』(共編著、2010年、京都大学学術出版会)
『南アジア社会を学ぶ人のために』(共編著、2010年、世界思想社)
The State in India: Past and Present (共編著、2006年、Oxford University Press)
Dislocating Nation-States: Globalization in Asia and Africa (共編著、2005年、Kyoto University Press and Trans Pacific Press)
Gender and Modernity: Perspectives from Asia and the Pacific (共編著、2003 年、Kyoto University Press and Trans Pacific Press)

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